遺産分割
最判平成21年3月24日民集63巻3号427頁
被相続人から財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が特定の相続人に指定された場合は、特段の事情の無い限り、当該相続人に相続債務を全て相続されものと解すべきと判断しました。他方で、相続分の効果は債権者には及ばず、各相続人は、債権者から法定相続分の債務の履行を求められた場合には、これに応じなければならないとも判断しました。
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相続債務については、遺言の如何にかかわらず、債権者は相続分に応じて債権を行使することができます。とはいえ、銀行などでは、特定の相続人に債務の全部を引受けさせ、他の相続人の債務は免責するのが一般的な扱いです。
最大決平成25年9月4日民集67巻6号1320頁
嫡出子と、嫡出子でない子の法定相続分を区別していた民法の規定を憲法に違反すると判断しました。
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この判例を受けて、平成25年12月に民法の一部が改正され、嫡出子と非嫡出子の法定相続分に区別はなくなりました。法律改正前であっても、この判例で触れられている平成13年7月以降に発生した相続については、嫡出子と非嫡出子の区別なく遺産分割をする必要があります。
最判平成25年9月13日民集67巻6号1356号
保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として消滅時効の中断の効力を有すると判断しました。
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主たる債務の消滅時効と保証債務の消滅時効は別々に進行し、保証人が弁済を継続しているだけでは主債務の消滅時効の進行は中断しませんので、保証人が弁済を継続していても、主債務の消滅時効を援用することが可能です(その結果、保証債務も附従的に消滅します。)。しかし、保証人が主たる債務を相続したことを認識した上で弁済をしていた場合には主債務の消滅時効を主張できないことが明らかになりました。
最判平成25年11月29日民集67巻8号1736頁
共有物について相続が発生した場合には、他の共有者と相続人との共有関係の解消は、遺産分割ではなく、共有物分割訴訟によるべきと判断しました。
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通常の共有状態(民法249条以下)と遺産共有状態は、その性質を異にするものではないと考えられていますが、解消の方法は、前者が共有物分割、後者が遺産分割であり、異なる手続きとなります。本判例は、共有物の一部が遺産共有状態になった場合には、共有物分割の手続きによるべきことを明らかにしました。
最判平成26年2月14日民集68巻2号113頁
自己の相続分の全部を譲渡したときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持ち分の全てを失うため、遺産分割審判の手続きで遺産分割を求めることはできず、遺産確認の訴えの当事者適格がないと判断されました。
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相続人は、自己の相続分を他の相続人に譲渡することができ、現実に多用されている方法です。遺産確認の訴えは、共同相続人全員を当事者としなければならない手続き(いわゆる固有必要的共同訴訟)ですが、相続分を譲渡した相続人については、当事者として加える必要が無いこととが明らかになりました。
最判平成26年2月25日民集68巻2号173頁
株式、委託指図型投資信託受益権、国債は、権利の内容及び性質に照らして、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと判断されました。
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金銭債権については、相続分に応じて当然に分割されると解されていますが、株式については議決権等、委託者指図型投資信託については、帳簿閲覧請求権があり、不可分な権利を含んでいるので当然に分割されないと判断されました。国債については、購入単位が定められ、権利の分割行使が認められないとの理由で、当然分割が否定されました。いずれも遺産分割の手続きが必要になります。
最判平成28年12月19日民集70巻8号2121頁
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権について、当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となると判断しました。
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この判例が出る以前の古い判例では、預金債権も当然に分割されるものと解されていましたので、各相続人が銀行に自己の相続分の支払いを求めて訴訟を提起することができました。しかし、この判例以降は預金債権も遺産分割の調停・審判で解決することになりました。
遺留分侵害額請求
最決平成24年1月26日家月64巻7号100頁
持ち戻し免除の意思表示があったとしても、生前贈与は、遺留分侵害額請求の算定の基礎財産に算入されるとともに、持ち戻し免除の意思表示は遺留分を侵害される限度において効力を失い、遺留分権利者の相続分に加算されると判断されました。
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生前贈与において持戻し免除の意思表示があれば、遺産分割の計算において加算されないことになりますので、その主張がなされることは珍しくありません。しかし、本判決により、遺留分は確保されることが明らかになり、持戻し免除の意思表示によっても、遺留分を侵害することはできないことになりました。
最判平成30年10月19日民集72巻5号900頁
被相続人の死亡前に、以前の相続において相続分の譲渡を受けていた場合には、その譲渡分は、遺留分の基礎財産に加算すべき「贈与」になると判断されました。
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相続人は、自己の相続分を他の相続人に譲渡することができ、現実に多用されている方法です。しかし、例えば、父が亡くなり母と子2名(甲乙)が相続人となり、母が相続分を甲に全部譲渡した場合には、後日、母の相続時に、BからAに遺留分侵害額請求がなされる可能性があるので注意が必要です。
遺言書作成
最判平成23年2月22日民集65巻699頁
相続させる旨の遺言があっても、遺言者の死亡より前に推定相続人が死亡していた場合には、特段の事情の無い限り、遺言は効力が生じない(代襲者に遺言の効力は生じない)と判断しました。
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遺言書により特定の相続人に遺産を相続させるのは、遺言者とその相続人との身分関係、生活関係等の諸般の事情を考慮して決めたことであるから、通常は、当該相続人に当該遺産を相続させる意思にとどまるものと判断されました。遺言書作成後も、見直しが必要になる場合があることを忘れないようにしましょう。
最判平成27年11月20日民集69巻7号2021頁
遺言者が遺言書の文面全体に赤色のボールペンで斜線を引いた場合に、「遺言のすべての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当である」として遺言書の破棄があったものと判断しました。
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遺言書中の文言を抹消する行為は、「変更」なのか「破棄」なのかが問題となります。「破棄」の場合は遺言書自体が効力を失いますが、「変更」と考えられる場合には、方式にのっとらない変更は無効となり、元の文言が生きることになります。しかし、本件のように、文面全体に赤色ボールペンで斜線を引いたような場合には、行為の一般的な意味からして、破棄にあたると判断されました。
最判平成28年6月3日裁判所ウェブサイト
遺言書に印章による押印ではなく、花押が書かれた事案で、自筆証書遺言に必要な印があるとは認められないと判断しました。
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花押(かおう)とは、自署の代わりに書く記号のことですが、本件では、自筆証書遺言に、署名した上で、花押が書かれていました。原審の福岡高裁は、花押は、「文書の真性を担保する役割を担い、印章としての役割も認められている」として、民法961条1項の押印の要件を満たすと判断しましたが、最高裁は、「我が国において、印章に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認めがたい。」と判断して、押印の要件を満たさないと判断しました。遺言書作成のルールは厳格に守る必要があります。
相続に関するその他の問題
最判平成21年1月22日民集63巻1号228頁
相続人は、金融機関に対し、預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使できると判断しました。
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この判例により、相続人が単独で銀行などに預金の取引履歴を請求できることが明らかになりました。取引履歴ではなく、出金伝票などの帳票については、金融機関によって開示を認めるかどうか対応が異なりますが、弁護士に依頼し、弁護士法23条の照会をかけてもらい、開示が認められることもあります。
最判令和元年8月9日民集73巻3号293頁
甲から乙、乙から丙への相続があった場合において、乙が甲の相続の承認・放棄をしないまま死亡していた場合(いわゆる再転相続)は、相続放棄の熟慮期間の起算点は、丙が乙の相続の開始を知ったときではなく、丙が甲の地位を承継した事実を知ったときであると判断しました。
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再転相続は珍しいことではありません。相続放棄の熟慮期間の起算点については、本件に限らず、過去の裁判例により、実情に応じた柔軟な判断が示されています。